何も言わなくても、俺らの進む道なんて決まってたんだよ。
ベクトル
遠くから俺の名前を呼ぶ声がする。
それは段々と近づいて、誰の声だかを俺の頭が認識する。
「ん・・・」
目を開けようとしたけれど、太陽の光が眩しくて上手く開かない。
「基央、朝だよ」
寝返りを打って、太陽に背を向けてみる。
ようやく目が慣れてくると、今度はその姿を俺の頭が認識する。
声と姿の持ち主は、俺が愛してやまない人のもの。
「・・・?」
「おはよ、基央」
俺は上半身を起こして、欠伸を一つした。
「もー、基央ったら死んだように寝てるんだから」
「そんな寝てた?」
「寝てたよー。昨日の昼帰ってきたらベッドに倒れこんで・・・」
あ、それから今までずっと寝てたのか。
時計を見ると、もうすぐ一日の半分が過ぎようとする時間だ。
そういえば腹も減ったし、風呂にも入りたいような気分もする。
「よかった、死んでんのかと思った」
そう言いつつもの表情は楽しそうだ。
まあそれはそれでいいということにしよう。
ほんとに俺が死んでんのか心配されてたらどうしようかと思ったところだ。
「ねえ、」
「お腹すいたでしょ?あ、お風呂も入ってないんだっけ」
「うーん・・・」
まだ寝起きゆえに頭が上手く働かない。
どっちが先かなんて、最初から決まっている。
「俺はがいい」
そう言っての体を引き寄せた。
「うわっ、ちょっとー・・・基央」
「がいてくれればいい」
「馬鹿だなあ・・・」
はくすりと笑った。
ずっとこうしてられる、その自信は十分にある。
言葉なんて要らない。
何も言わなくても、おれらの進む道は決まっている。
「・・・一緒にいよう?」
「一緒にいるじゃん・・・そんなこと言わなくても」
「そうじゃないよ、だから」
口元にの耳を寄せた。
「結婚しよっか」
途端にの顔が真っ赤になる。
「・・・また、冗談言って」
は俺の腕を離して立ち上がった。
「もー、変なこと言わないで・・・ご飯にしようか」
は振り返ってはにかんだ。
「・・・冗談じゃないって」
まあ、はるひは俺が本気だって気付いているだろう。
俺らが進む道はただ一つだけだって。
0116.