「デビュー?」
「ん」
私は思わず、目を丸くした。

基央はいつもと変わらないトーンで言った。
いや、正確に言えば声が裏返るくらい嬉しいのを我慢して言っているようだった。
「・・・デビューって、あのデビュー?」
「どのデビューかな、ちゃん」
基央は首を傾げながら言った。
デビューって言えば、テレビやラジオに出演したり雑誌に載ったりするあれだ。
「・・・ていうかさ、今までデビューしてなかったの?」
「今までのはインディーズって言ってね、知ってる人しか知らない活動なの」
そういうのに詳しくない私は、ただ感心して頷くだけだった。
「でね、俺・・・東京行くんだ」
「へえー」
「へえーって・・・」
私の反応が薄いせいか、基央は驚いたような表情をした。
「デビューするんだったら、そりゃ東京に行くだろうねえ」
「う、うん・・・」
基央は戸惑ったようなリアクションを取った。
「・・・でさ」
「・・・分かってるよ」
『デビュー』という言葉を聞いた瞬間、何となく感付いていた。
基央は真っ直ぐに私を見ている。

「別れよっか、基央」

私はきっぱりとそう言った。
結構前から気付いてはいたんだ。
ここ最近、様子が変だった。
電話を気にしたり、急に予定をキャンセルされたり。
愛想が尽きたんじゃないんだろうけど、私を構ってくれる時間が目に見えるように減っていた。
・・・」
基央は静かに私を見た。
「・・・違う、
「え・・・?」
「俺は別れたくないよ」
基央は私を強く抱きしめた。
「・・・」
「一緒に来て欲しい・・・がいないと」
こんな弱気な基央は、初めて見た。
それに私の心は動揺してしまった。
がいないと・・・俺」
「駄目だよ、基央」
私は基央を突き放した。
基央は瞳に涙を浮かべていた。
基央を見ていると、私も視界が霞んできた。
「駄目だよ・・・?基央」

「一人で行かないと・・・駄目になっちゃうよ?」
「・・・」
「応援してるから・・・ね?」
「・・・うん」

ここが出発点 踏み出す足は いつだって始めの一歩

「ばいばい、基央」









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0429.