「おつかれー!」
「おっつー」
「お疲れー」
そうして俺たちは、互いにグラスを鳴らした。
「ツアーの成功に、かんぱーい」
「おそーい」
ちゃまが音頭を取る。
そこにヒロが突っ込んだ。
俺と藤原はというと、向き合って座っていた。
ここはとある居酒屋で、俺たちはツアーの成功を祝って飲みに来ていた。
普段は酒なんて飲まないちゃまや藤原も、今日は特別に来てくれた。
「お疲れ、秀ちゃん」
藤原が口元を緩めて、俺に言った。
「お疲れさん」
俺もそれに返した。
ヒロとちゃまは相変わらずぎゃーぎゃー騒いでいるが、俺と藤原はそんな奴らを横目で見ていた。
「何か、終わったら寂しいね」
藤原は、グラスを傾けて言った。
「そうだな・・・色々あったけど」
俺も苦笑いで返した。
「きょうは、ちゃんは来るの?」
「・・・?ああ」
呼んどいた、と藤原は頷いた。
俺は笑顔を返したが、本当は複雑な気持ちでいっぱいだった。
程も無くして、彼女は姿を現した。
「こんにちわー!みんな!」
「ちゃん!」
「ちゃーん!!」
ヒロとちゃまが目をきらきらさせて言った。
ちゃんは笑顔で頷いた。
「、ここ」
藤原が自分の隣の席へ促した。
「基央、遅くなってごめん」
「いいって、来てくれるだけでありがたいし」
ちゃんは藤原の隣に腰を下ろした。
「ひゅーひゅー、あっついねー藤くん!」
「いいなー!俺も彼女欲しー!」
ちゃまとヒロが順番に冷やかした。
藤原は「うるせー」と言いながらも、その表情は嬉しそうだった。
傍から見れば、こんなにお似合いのカップルなんていないだろうって感じだ。
見ているだけでこっちまで幸せになりそうな感じだ。
だけど、俺は違う。
俺は、ちゃんのことが好きだ。
藤原の彼女っていうのは、勿論知っている。
それでも・・・彼女を好きになってしまった。
俺は、気づかれないようにとグラス越しにしか彼女を見ることが出来なかった。
宴会が始まって数時間も経てば、周りの奴らはみんな酔いつぶれてしまった。
元々お酒に弱い藤原やちゃまは机の上に突っ伏して寝ている。
一方でヒロはというと、床に大の字に寝っ転がって熟睡していた。
ちゃんも、藤原の肩に凭れて目を閉じていた。
酒には強い俺だけが、唯一生き残ったといった感じであった。
俺は、ちゃんを見た。
藤原の肩と、ちゃんの肩が同じように上下している。
しんと静まり返った部屋の中で、その寝息だけが響いている。
「・・・俺」
俺は口を開いた。
これ以上、我慢が出来なかった。
「ちゃんのことが・・・好きです」
起きる気配は無い。
俺は言葉を続けた。
「ずっとずっと・・・好きでした・・・誰よりも」
瞳に涙がうっすらと浮かんできた。
珍しく酔ったのだろうか。
俺の頬に涙が零れると同時に、席を立った。
そして、誰にも気付かれないように店を出た。
外は雨が降っていた。
その雨が、俺の涙を流してしまった。
それはきっと、涙雨なんだろう。
あの時、俺は確かに見た。
ちゃんの頬に、涙が伝うのを。
sprinkling rain
0427.